保証人が主債務者の代わりに支払うと、法律上「求償権」という、本人に支払った分を返してもらえる権利が発生します。
ただし、請求できる範囲は、保証を頼まれていたかどうか(委託の有無)や、主債務の弁済期(支払期限)の前後によって変わります。また、本人が自己破産すると、実際にお金を回収することが難しくなるケースもあります。
この記事では、保証人が代わりに支払った場合に発生する求償権の仕組みと、支払う前後に確認しておきたいポイントを、民法の規定に沿ってわかりやすく解説します。
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保証人が代わりに支払ったらどうなる?求償権の基本
保証人が債権者に対して主債務者の代わりに支払う(弁済する)と、その保証人には主債務者に対して「支払った分を返してほしい」と請求できる権利が発生します。
これを「求償権」といいます。
ここで重要なのは、求償権は保証人が実際に弁済などによって債務を消滅させる行為をして初めて、現実の請求権として発生するのが原則だという点です。
つまり、保証人になっただけの段階では、通常はまだ主債務者に「返してください」と請求できる状態にはありません。
ただし、委託を受けた保証人には、実際に支払う前でも一定の要件のもとで請求できる「事前求償権」という制度があります。これは民法460条に規定されています。
「求償権」とは何か
求償権とは、他人の債務を自分の財産で消滅させた人が、その本人に対して支出した分の返還を求めることができる権利です。
保証人が主債務者の代わりに借金や家賃などを支払った場合、この求償権にもとづいて主債務者に返済を求めることになります。
ただし、求償権として請求できる金額の範囲は、支払った全額がそのまま認められるとは限りません。
「保証を頼まれていたのか」「主債務の支払期限より前に支払ったのか」といった事情によって、求償できる範囲が変わります。
保証人が代わりに支払った場合、本人にいくら請求できる?
保証人が主債務者の代わりに支払った場合に、いくら求償できるかは、主に次の2つの要素によって決まります。
- 主債務者から保証を頼まれていたか(委託の有無)
- 弁済をしたのが主債務の弁済期(支払期限)より前か後か
「委託を受けた保証人だから民法459条、委託を受けていない保証人だから民法459条の2」という単純な区分ではない点に注意が必要です。
委託を受けた保証人であっても、弁済期より前に支払うと民法459条の2が適用され、請求できる範囲や行使できる時期が変わります。
委託を受けた保証人が弁済期後に支払った場合(民法459条)
主債務者から保証を頼まれていた保証人が、弁済期が来たあとに代わりに支払った場合、民法459条にもとづき、次の範囲を求償できます。
- 支出した財産の額(消滅した主債務の額を超えるときは、その消滅した額まで)
- 弁済した日以後の法定利息
- 避けることができなかった費用
- その他の損害賠償
つまり、主債務者から正式に保証を頼まれており、支払期限が到来した後に保証人が代わりに支払った場合には、法律で定められた範囲内で、支払った金額だけでなく法定利息や必要な費用なども請求できる可能性があります。
委託を受けた保証人が弁済期前に支払った場合(民法459条の2)
同じく委託を受けた保証人でも、弁済期が来る前に代わりに支払ってしまった場合は、民法459条の2が適用されます。
この場合、求償できる範囲は「主債務者がその当時利益を受けた限度」とされており、民法459条の「支出した財産の額」とは異なる基準になります。
また、法定利息や費用についても「主たる債務の弁済期以後」を起算点とするもので、民法459条のように「弁済した日」から法定利息が付くわけではありません。
さらに、この求償権自体は主債務の弁済期が来るまでは行使できません(民法459条の2第3項)。
つまり、委託を受けた保証人であっても、支払期限より早く支払ってしまうと、請求できる金額が制限されたり、実際に請求できる時期が遅れたりする可能性があります。
委託を受けていない保証人が支払った場合(民法462条)
主債務者から頼まれていないのに保証人になって支払った場合でも、求償権自体はあります。
「委託を受けずに保証した場合は求償権がない」というのは誤りです。
ただし、請求できる範囲は、委託を受けた場合よりも限定されます。
主債務者の意思に反しない場合
民法462条1項では、民法459条の2第1項が準用され、主債務者がその当時利益を受けた限度で求償できるとされています。
ここでは「支払った当時」を基準として、主債務者が利益を受けた限度が問題になります。
主債務者の意思に反する場合
民法462条2項では、主債務者が現に利益を受けている限度で求償できるとされています。
こちらは「現在、主債務者が利益を受けているか」が基準となります。
つまり、
- 意思に反しない場合 → 支払った当時の利益
- 意思に反する場合 → 現在の利益
というように、基準となる時点が異なる点が重要です。
また、委託を受けていない保証人が弁済期より前に支払った場合も、委託を受けた保証人と同様、主債務の弁済期が来るまでは求償権を行使できません(民法462条3項)。
さらに、民法462条には民法459条のような法定利息・費用の加算をそのまま認める規定が準用されていないため、委託を受けた場合に比べて求償できる範囲が狭くなる点にも注意が必要です。
一部だけ代わりに支払った場合
保証人が主債務の全額ではなく、一部だけを代わりに支払った場合でも、その支払った範囲では求償権が発生します。
求償できる範囲の考え方は全額を支払った場合と同じで、委託の有無と弁済のタイミングによって、民法459条・459条の2・462条などの規定が問題になります。
また、一部弁済の場合には、これとは別に「弁済による代位」という制度も関係します。
弁済による代位は、保証人などが債権者に代わって債務を弁済した場合に、一定の範囲で債権者が持っていた権利を引き継ぐ制度です(民法499条以下)。
一部弁済の場合、代位した保証人は、債権者の同意を得て債権者とともに権利を行使できます。
一方、担保からの回収などの場面では、債権者の権利が代位者の権利に優先します(民法502条3項)。
そのため、担保付きの債務を一部だけ代わりに支払ったケースでは、全額を支払った場合とは異なる複雑な問題が生じる可能性があります。
担保が関係する一部弁済については、弁護士などの専門家に確認することをおすすめします。
本人が「払えない」と言ったら
求償権があることと、実際にそのお金を回収できることは、まったく別の問題です。
求償権という権利自体は、原則として保証人が弁済をした時点で発生します。
しかし、主債務者に支払う資力がなければ、法律上は求償できても、現実にはお金を回収できないという事態が起こり得ます。
主債務者が「払えない」と言っている場合、それが一時的な資金繰りの問題なのか、それとも実質的に支払い能力がない状態なのかによって、その後の対応は変わります。
たとえば、
- 分割での返済を交渉する
- 返済期限を設定する
- 内容証明郵便などで正式に請求する
- 支払督促を申し立てる
- 訴訟を起こす
などの選択肢があります。
どの方法が適切かは、主債務者の資力や支払う意思、求償額などによって異なります。
回収が難しいと感じた場合は、早めに弁護士などの専門家へ相談することが重要です。
本人が自己破産したら、保証人が支払ったお金は返してもらえる?
主債務者が自己破産し、免責許可決定が確定すると、保証人が主債務者に対して持っている求償権は、原則として「破産債権」として扱われます。
そして、破産法253条1項本文により、免責許可決定が確定すると、主債務者は原則として破産債権について責任を免れることになります。
そのため、保証人が代わりに支払ったお金を、主債務者本人から回収することが難しくなる可能性があります。
ただし、破産法253条1項ただし書には、免責の対象から外れる「非免責債権」に関する例外規定があります。
求償権がこの例外に該当するかどうかは、具体的な事情によって判断されるため、「自己破産したら必ず全額戻ってこない」と一律に断定することはできません。
主債務者の自己破産が見込まれる場合や、すでに破産手続きが進んでいる場合は、求償権の扱いについて弁護士などの専門家に確認することをおすすめします。
なお、破産法253条2項により、主債務者の免責は、債権者が保証人に対して持っている権利には影響しません。
つまり、主債務者が自己破産して免責を受けても、保証人が債権者に対して負っている保証債務そのものが消えるわけではありません。
「主債務者の責任」と「保証人の責任」は分けて考える必要があります。
保証人が代わりに支払う前に確認したいこと
実際に主債務者の代わりに支払う前に、次のような点を確認しておくことが重要です。
1.保証契約の内容を確認する
保証契約の内容を確認し、どの債務について保証しているのか、保証の範囲はどこまでなのか、極度額の定めがあるのかなどを確認します。
特に賃貸借契約などの根保証では、極度額の有無が重要になる場合があります。
2.請求額が正しいか確認する
債権者から請求されている金額が、実際に保証契約の対象となっている金額なのかを確認しましょう。
元本だけでなく、利息、遅延損害金、原状回復費用、その他の費用などが含まれている場合があります。
請求された金額をそのまま支払うのではなく、契約書や請求書などを確認することが大切です。
3.証拠を残しておく
支払いをする場合は、次のような資料を保管しておきましょう。
- 保証契約書
- 主債務に関する契約書
- 債権者からの請求書
- 支払ったときの振込明細
- 領収書
- 主債務者とのやり取り
- 支払いを求められた経緯がわかるメールやメッセージ
後から求償する際に、実際にいくら支払ったのかを証明する重要な資料になります。
4.主債務者への事前連絡
委託を受けた保証人が主債務者にあらかじめ通知せずに代わりに支払うと、民法463条1項により、主債務者が債権者に対して主張できたはずの事情を、あとから保証人に対して主張されることがあります。
たとえば、主債務者がすでに一部を支払っていた場合や、債権者に対して相殺できる事情があった場合などです。
これは求償権そのものがなくなるという意味ではありません。
しかし、結果として保証人が求償できる金額が減ってしまう可能性があります。
そのため、支払う前に主債務者へ連絡しておくことが実務上重要です。
支払う前でも請求できる「事前求償権」とは?
委託を受けた保証人には、実際に債権者へ支払う前の段階で、主債務者に求償を求めることができる「事前求償権」という制度があります。
民法460条では、一定の要件を満たした場合に、保証人が主債務者に対して事前に求償できることが定められています。
代表的なケースとして、次のようなものがあります。
- 主債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ債権者がその破産財団の配当に加入しないとき
- 債務がすでに弁済期にあるとき(ただし、保証契約のあとに債権者が主債務者に許した期限は保証人には主張できません)
- 保証人が過失なく、債権者に弁済すべき旨の裁判の言渡しを受けたとき
ただし、事前求償権は誰でも自由に使える制度ではありません。
たとえば、主債務者が破産手続開始の決定を受けただけでは足りず、債権者側が破産財団の配当に加入していないことまで必要になるなど、要件が限定されています。
適用できるかどうかは具体的な事情によって異なるため、気になる場合は専門家に確認してください。
「保証人」と「連帯保証人」では何が違う?
「保証人」と「連帯保証人」は、法律上は異なる立場です。
通常の保証人には、債権者からいきなり請求された場合に「まず主債務者に請求してください」と主張できる「催告の抗弁」(民法452条)が認められています。
また、「まず主債務者の財産から回収してください」と主張できる「検索の抗弁」(民法453条)もあります。
ただし、催告の抗弁は、主債務者が破産手続開始の決定を受けたときや、行方が知れないときには主張できません。
検索の抗弁も無条件に利用できるわけではなく、保証人側で「主債務者に弁済をする資力があり、かつ強制執行が容易であること」を証明する必要があります。
これに対して連帯保証人には、これらの抗弁が認められません(民法454条)。
つまり連帯保証人は、主債務者に支払う資力があるかどうかにかかわらず、債権者から直接、支払いを求められる可能性があります。
そのため、連帯保証人は通常の保証人よりも重い責任を負う立場だといえます。
なお、個人が根保証契約(継続的な取引などから生じる不特定の債務を保証する契約)を結ぶ場合には、極度額(保証する上限額)を定めなければ効力を生じないとする規定があります(民法465条の2)。
保証契約の内容によって責任の範囲は大きく変わるため、自分がどのような保証人になっているのかを正確に確認することが重要です。
保証人が代わりに支払った後にやるべきこと
保証人が実際に代わりに支払った後は、次のような対応を検討しましょう。
1.支払った事実と金額を記録する
振込明細や領収書などを保管し、いつ、誰に、いくら支払ったのかがわかるようにしておきます。
2.求償できる範囲を確認する
保証を頼まれていたのか、弁済期の前後どちらで支払ったのかなどを確認し、民法459条・459条の2・462条など、どの規定が関係するのかを整理します。
3.主債務者に返済を求める
主債務者に連絡し、返済の意思や返済時期を確認します。
一括返済が難しい場合には、分割返済などの方法を話し合うことも考えられます。
4.回収が難しい場合は法的手続きを検討する
主債務者が返済に応じない場合には、内容証明郵便による請求、支払督促、訴訟などの手続きが選択肢になります。
ただし、どの手続きを選択するかは、請求額や相手の資力、証拠の有無などによって変わります。
5.主債務者の自己破産が心配なら早めに相談する
主債務者に資力がなく、自己破産する可能性がある場合は、できるだけ早い段階で弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
保証人が代わりに支払った場合の信用情報への影響
保証人が主債務者の代わりに支払った場合、その事実が保証人自身の信用情報にどのような形で登録されるかは、保証契約の内容や信用情報機関、債権者側の取り扱いなどによって異なる可能性があります。
そのため、「保証人が代わりに支払ったら必ず信用情報に傷がつく」と一律に断定することはできません。
心配な場合は、CIC、JICC、全国銀行個人信用情報センター(KSC)などの信用情報機関への開示請求を検討するか、保証契約を結んだ金融機関などの債権者に個別に確認することをおすすめします。
よくある質問
Q.保証人になっただけで求償権は発生しますか?
いいえ。
求償権は原則として、保証人が実際に弁済などをして主債務を消滅させた時点で発生します。
ただし、委託を受けた保証人には、一定の要件のもとで実際に支払う前でも請求できる「事前求償権」(民法460条)という例外があります。
Q.委託を受けずに保証人になった場合、求償権はまったくないのですか?
いいえ。
委託を受けていない場合でも求償権自体はあります。
ただし、請求できる範囲は、委託を受けた場合よりも限定されます(民法462条)。
Q.求償権には時効がありますか?
はい。
求償権にも消滅時効の制度があります。
ただし、具体的な時効期間や起算点は、保証契約の内容、弁済した時期、委託の有無などによって判断される部分があります。
そのため、この記事では一律の期間を断定していません。
時効が問題になりそうな場合は、弁護士などの専門家に確認することをおすすめします。
Q.一部だけ代わりに支払った場合でも請求できますか?
はい。
支払った範囲では求償権が発生します。
ただし、担保付きの債務を一部だけ代わりに支払ったケースでは、担保からの回収について債権者の権利が優先される場合があるなど(民法502条3項)、全額を支払った場合よりも複雑な問題が生じる可能性があります。
担保が関係する場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
一人で抱え込まないために
保証人としてお金を支払うべきか、代わりに支払った後にどう対応すべきかで迷ったときは、まず弁護士など法律の専門家に相談することが基本です。
特に、
- 求償できる金額を正確に計算したい
- 主債務者が返済してくれない
- 主債務者が自己破産する可能性がある
- 支払う前に求償できるのか知りたい
- 一部弁済や担保が関係している
- 求償権の時効が心配
といったケースでは、個別の事情によって結論が変わる可能性があります。
自己判断で対応せず、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
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