賃貸借契約の保証人を頼まれた際、貸主や管理会社、保証会社から収入証明の提出を求められることがあります。
「保証人になるなら収入証明が必要なの?」
「源泉徴収票や課税証明書を出せない場合はどうなる?」
「収入が少ない場合でも保証人になれる?」
このような疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
結論からいうと、賃貸借契約の保証人に対して、収入証明の提出を法律上一律に義務づける規定はありません。
ただし、貸主・管理会社・保証会社が、入居審査や保証人の支払能力を確認するために、収入証明の提出を求めることはあります。
本記事では、収入証明の提出が法律上の義務にあたるのか、なぜ求められるのか、よく使われる書類、提出できない場合の考え方などを、確認できた法令の範囲で整理します。
賃貸の保証人に収入証明は必要?法律上の義務なのか
結論からいうと、今回確認した民法・借地借家法・宅地建物取引業法(施行規則を含む)、および国土交通省告示である家賃債務保証業者登録規程の範囲では、賃貸借契約の保証人に収入証明の提出を義務づける規定は見当たりませんでした。
保証契約そのものは、民法446条により、書面または電磁的記録でなければ効力を生じません。
また、個人が根保証人(一定範囲の不特定の債務を保証する人)となる場合、民法465条の2第2項により、極度額(保証人が負う上限額)を定めなければ、その保証契約は効力を生じません。
無効となるのは保証契約であって、賃貸借契約そのものが無効になるわけではありません。
極度額を書面または電磁的記録で定めることも法律上必要な要件です(465条の2第3項による446条2項・3項の準用)。
なお、この極度額規制は2020年4月1日施行の改正民法によるもので、適用されるかどうかは保証契約を締結した時期によって判断されます。
施行日前に締結された保証契約の扱いや、契約更新時の扱いは個別の事情によるため、気になる場合は契約書を持参して専門家に相談してください。
重要なのは、この極度額の合意要件と、保証人の収入証明の提出とは別の問題だということです。
つまり、
- 極度額を定めること → 法律上必要
- 収入証明を提出すること → 法律上、一律に義務づけられているわけではない
という違いがあります。
参考として、国土交通省が公表している「賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・連帯保証人型)」の連帯保証人欄に記載を求められているのは、住所・氏名・電話番号と極度額です。
勤務先や年収・収入を記載する欄はありません。
国がひな形として示す様式にも保証人の収入欄が置かれていないことは、収入証明の提出が制度上当然の前提とはされていないことをうかがわせます。
ただし、標準契約書はあくまで使用が任意のひな形であり、これを使う法的義務はありません。
貸主・管理会社が独自の申込書や契約書で収入に関する情報を求めること自体はあります。
したがって、実際に何を提出する必要があるかは、契約先である貸主・管理会社・保証会社に確認することが大切です。
なお、これは「日本に存在するすべての法律・条例を確認した上で一切存在しない」と断定するものではありません。
あくまで今回調査した主な法令・告示の範囲での整理です。
個別の契約書の条項や特約によって、収入証明その他の書類提出が契約条件として定められているケースもあり得ます。
契約内容そのものに疑問がある場合は、契約書を確認したうえで弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
なぜ収入証明を求められることがあるのか
法律上の義務ではないにもかかわらず、実務では貸主・管理会社・保証会社が収入証明の提出を求めることがあります。
これは、家賃を滞納なく支払い続けられるかどうかを判断するための入居審査・与信判断の一環として行われているものと考えられます。
保証人は、借主(賃借人)が家賃を支払わない場合に、借主に代わって支払う責任を負う立場です(民法446条1項)。
貸主側からすれば、いざというときに保証人が実際に支払えるかどうかを事前に確認しておきたいと考えるのは、審査上自然なことといえます。
特に、保証人が負う可能性のある責任額が大きい契約では、保証人の資力を確認したいと考える理由も大きくなります。
ただし、どの契約でどこまで確認するかは、貸主・管理会社・保証会社ごとの運用によって異なります。
収入証明の提出を求めること自体が、法律によって一律に決められているわけではありません。
また、宅地建物取引業法35条1項や同法施行規則16条の4の3は、宅建業者が借主等に対して契約条件を説明する義務、いわゆる重要事項説明について定めた規定です。
これらは保証人に収入証明などの書類を提出させる根拠となる規定ではありません。
保証人の収入・資力についても、これらの規定で一律に説明・提出を求められているわけではありません。
収入証明としてよく使われる書類の例
収入証明の提出を求められた場合、実務上よく使われる書類には次のようなものがあります。
ただし、「必ずこの書類が必要」という全国共通のルールがあるわけではありません。
求められる書類は、貸主・管理会社・保証会社によって異なります。
源泉徴収票
会社員などの場合、収入を確認するために源泉徴収票の提出を求められることがあります。
源泉徴収票は勤務先(給与の支払者)が発行する書類です。
所得税法226条1項により、勤務先は原則として、その年の翌年1月31日まで(中途退職者は退職日以後1月以内)に交付する義務を負っています。
ただし、これは勤務先が従業員に源泉徴収票を交付する義務であり、賃貸の保証人になるために源泉徴収票を作成・提出することが法律で義務づけられているわけではありません。
また、交付時期が定められているため、時期によっては最新年分の源泉徴収票をまだ受け取っていない場合もあります。
課税(所得)証明書
課税(所得)証明書は、住民税の課税額や、その根拠となった前年の所得金額などを証明するための書類です。
証明を受けようとする年度の1月1日時点で住んでいた市区町村が発行するため、転居直後の場合は以前住んでいた自治体に請求する必要が生じることがあります。
ただし、書類の名称・様式・請求方法は自治体によって異なります。
給与明細書
直近の収入状況を確認するため、給与明細書の提出を求められるケースもあります。
たとえば、直近数か月分の給与明細を提出することで、現在の収入状況を確認するという方法です。
ただし、何か月分必要なのか、給与明細で代用できるのかは、提出先によって異なります。
納税証明書
「納税証明書」と「課税(所得)証明書」は、名前が似ていますが別の書類です。
納税証明書には、市区町村が交付する地方税の納税証明書(地方税法20条の10)と、税務署等が交付する国税の納税証明書(国税通則法123条1項)があります。
国税の納税証明書には複数の種類があり、たとえば納付すべき税額等を証明するものや、申告所得税等の所得金額を証明するものなどがあります。
一方、課税(所得)証明書は、市区町村が発行し、住民税の課税額とその根拠となった所得金額などを証明するものです。
そのため、提出を求められた場合には、
「納税証明書でいいのか」
「課税(所得)証明書が必要なのか」
「何年度のものが必要なのか」
まで確認してから取得すると安心です。
収入証明を提出できない場合はどうなるか
無職の方や、確定申告をしている個人事業主・フリーランスの方など、求められた収入証明をすぐに用意できないケースもあります。
そもそも、該当する収入証明書が存在しない場合もあります。
前述の通り、収入証明の提出は法律上の一律の義務ではありません。
したがって、
「収入証明を提出しなければ法律違反になる」
ということではありません。
ただし、ここで注意したいのは、
「法律上の義務ではない」ことと、「提出しなくても契約に影響しない」ことは別だということです。
日本の民法には契約自由の原則が定められており(民法521条)、貸主・管理会社・保証会社の側にも、誰と契約を結ぶか、どのような条件で契約を結ぶかを判断する自由があります。
そのため、収入証明の提出がない、あるいは審査上十分な資力が確認できないと判断された場合に、貸主側が契約の締結を見合わせる可能性はあります。
つまり、
「法律で収入証明が必要」ではないが、「貸主側が審査のために提出を条件とする」ことはあり得る
ということです。
もし収入証明を提出できない場合には、
- 別の収入証明書で代用できないか
- 給与明細など別の資料を提出できないか
- 預金残高など別の資料で確認してもらえないか
- 保証会社を利用できないか
- 別の保証人を立てられないか
などを貸主・管理会社に相談してみるとよいでしょう。
「収入証明を出せないなら保証人に絶対なれない」という法律上のルールがあるわけではなく、最終的には個々の契約における貸主・管理会社・保証会社の判断になります。
「保証人自身の収入審査」と「検索の抗弁」は別物
ここは非常に誤解されやすいポイントです。
契約時に求められる収入証明と、民法453条の検索の抗弁は、まったく別の話です。
契約時に求められる収入証明は、これから保証人になろうとする人が、審査の段階で自分自身に支払能力があることを貸主等に示すために提出するものです。
あくまで契約締結前の入居審査の場面の話です。
一方、民法453条の「検索の抗弁」は、契約後に借主が家賃を支払わず、貸主が保証人に請求してきた場合などに問題となる制度です。
検索の抗弁とは、保証人が、
「主たる債務者である借主には弁済する資力があり、かつ強制執行も容易である」
ことを証明した場合に、貸主に対して、まず主たる債務者の財産について執行するよう求めることができる制度です。
ここで重要なのは、証明する対象が保証人自身の収入ではなく、借主の資力であることです。
したがって、
「保証人になるためには、自分に支払能力があることを民法453条によって証明しなければならない」
という説明は、民法453条の内容を正確に表したものではありません。
さらに、賃貸借契約で一般的に用いられる「連帯保証人」は、民法454条により、検索の抗弁を持ちません。
また、通常の保証人に認められている催告の抗弁についても、連帯保証人には認められません。
つまり、連帯保証人は、
「まず借主に請求してほしい」
「まず借主の財産から回収してほしい」
といった順番を主張する権利を持たないという点に注意が必要です。
契約時の収入証明の話と、民法453条・454条の検索の抗弁の話は、登場する場面も、証明する対象も、制度の目的も異なる別の論点です。
保証会社を利用する場合との違い
保証人を頼める人がいない、あるいは個人の保証人を立てずに契約したい場合には、家賃債務保証会社を利用する方法もあります。
この場合、審査を行う主体は、貸主・管理会社だけではなく保証会社となります。
家賃債務保証業者登録制度という任意の登録制度が存在しますが、今回確認した範囲では、保証の引受基準について、
「年収○○万円以上でなければ保証を受けられない」
といった全国一律の基準を国が定めているわけではありません。
審査基準は、各保証会社が独自に設けている内部基準による部分があります。
そのため、ある保証会社の審査に通らなかったとしても、それだけを理由に法律上、賃貸契約そのものができなくなるわけではありません。
保証会社によって審査基準や必要書類が異なる場合もあるため、利用する場合は、保証会社や管理会社に具体的な条件を確認することが重要です。
また、個人の保証人を立てる場合と保証会社を利用する場合とでは、収入証明を求める主体や審査の視点が異なります。
いずれの場合も、法律上一律の収入基準が定められているわけではないという点は共通しています。
よくある質問
収入証明を出さないと保証人になれませんか?
今回確認した法律の範囲では、収入証明の提出そのものを一律に義務づける規定はありません。
ただし、貸主・管理会社・保証会社には契約を締結するかどうかを判断する自由があるため、提出がないことを理由に契約が見送られる可能性はあります。
したがって、「提出できなければ法律上保証人になれない」ということではありませんが、実際の契約では提出を求められる可能性があります。
源泉徴収票と課税証明書、どちらを用意すればよいですか?
求められる書類は、貸主・管理会社・保証会社によって異なります。
源泉徴収票は勤務先が交付するもので、課税(所得)証明書は市区町村が発行するものです。
どちらが必要なのか、また何年度のものが必要なのかを、提出先に事前に確認するとよいでしょう。
極度額が高いと収入証明が必ず必要になりますか?
いいえ。
民法465条の2により、個人根保証契約では極度額を定めることが保証契約の有効要件とされています。
しかし、極度額の高さと収入証明の提出を法律上直接結びつける規定は確認できませんでした。
実務上、極度額が大きい契約では貸主側が保証人の資力を確認したいと考える可能性はありますが、これはあくまで審査上の判断です。
収入証明を求められていますが、代わりに検索の抗弁を主張することはできますか?
できません。
検索の抗弁(民法453条)は、契約後に主たる債務者である借主が支払わず、貸主が保証人に対して請求・執行してきた場面で問題となる制度です。
また、証明する対象は保証人自身の収入ではなく、主たる債務者である借主の資力です。
したがって、契約前の審査で求められている収入証明の代わりになるものではありません。
さらに、賃貸借契約で一般的な連帯保証人には、民法454条により検索の抗弁自体が認められていません。
ご自身の契約が通常の保証なのか連帯保証なのか、契約書の記載を確認することをおすすめします。
保証人になる前に確認しておきたいこと
賃貸の保証人を引き受ける前には、収入証明の提出だけを見るのではなく、保証人としてどこまで責任を負うのかを確認しておくことが大切です。
特に次の点を確認しましょう。
- 極度額はいくらに設定されているか
- 保証契約が書面または電磁的記録で締結されるか
- 収入証明として何を提出する必要があるか
- 何年度の収入証明が必要なのか
- 収入証明を用意できない場合、代替書類を利用できるか
- 保証会社を利用する契約なのか
- 個人の保証人と保証会社が併存する契約なのか
- 自分が通常の保証人なのか連帯保証人なのか
- 保証契約の極度額はいくらなのか
- 契約書の内容を確認してから署名・押印することができるか
特に重要なのが、極度額の確認です。
個人根保証契約では、極度額が保証人の負う責任の上限になります。
「家賃だけを保証すると思っていたら、契約上は原状回復費用なども保証の対象になっていた」
といったケースも考えられるため、保証の対象となる債務について契約書を確認しておきましょう。
契約書の具体的な条項の解釈や、収入証明の提出をめぐるトラブルなど、法的な疑問がある場合は、まず弁護士など法律の専門家に相談することをおすすめします。
保証人は、単に書類を提出するだけの立場ではありません。
借主が家賃などを支払えなくなった場合には、保証契約の内容に応じて金銭的な責任を負う可能性があります。
そのため、「頼まれたから」という理由だけで安易に署名・押印するのではなく、どのような債務を、いくらまで保証する契約なのかを確認してから判断することが大切です。
本記事は保証人問題を解決するための情報メディアです。
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